以前、筆者はブラック介護施設で5年間も働いていました。
社長は社員を理詰めで追い込み、無理難題でも社員がやらざるを得ない状況に追い込むのが得意な最低の人間でした。
そのくせ理屈で不利な状況があると、ことさら精神論を口にして体育会系のノリを社員にも押しつけてくるような姑息な人間でした。
筆者も学生時代はずっと運動部に所属していたので、体育会系のノリは苦手ではありません。
ですが、この会社では『体育会系』で済まされないような底辺の待遇に筆者が追い込まれていたのです。
カースト制度で言うと、社長がピラミッドの頂点に君臨し「王様」です。
その下に上司がいて、その下の層には他のスタッフがいて、最下層が筆者でした。
一言で言えば「奴隷」です。
「自分は底辺なんだ、奴隷なんだ」
と考えざるを得ないルールがこの会社には存在しました。
一見、非常識にも思えたルールでしたが、社内にいると外部と接触する機会も少なく非日常的な空間だったのでルールに従うのが常識になっていました。
とんでもない会社でしたが、ブラック企業とも知らず入社してしまった筆者の判断が間違っていたのでしょう。
今振り返ると時代錯誤というか、身分制度が敷かれていた時代にタイムスリップするような不思議な感覚になります。
今回は、筆者が経験したこの会社の独特なルールをいくつかご紹介したいと思います。
ブラック企業ルール:上司の出勤を氷点下の外で待つ
初っぱなから「は?何それ?」ですよね?
まずは「上司の出勤を氷点下の外で待つ」というルールについてご説明します。
筆者は会社の鍵を持っていなかったので、中に入れませんでした。
常識的に考えれば鍵は社員に渡されるのが当然ですし、実際、今まで勤めた会社は全てそうでした。
ところがこの会社では、5年間働いても会社の鍵を渡されることはとうとうありませんでした。
理由は「お前という人間が信用できないから」だそうです。
ひどい言われようです。散々こき使われてこれでは筆者も浮かばれません。
「それなら早く解雇してくれよ」
「なんで信用できない人間を雇ってるんだよ」
って話ですよね。
鍵がないので、上司が出勤した後で筆者が出勤すれば問題がないように思えます。
ところが、それは「普通の会社」「普通の身分の人」の話です。
残念ながらここは「ブラック企業」で、筆者は「底辺の身分」です。
鍵がなくても上司より遅く出勤するのは許されなかったのです。
上司は始業時間より1時間以上も早く出勤する人でしたが、その上司より早く出勤して外で待っていなければいけないのです。
自分の立場を自覚してなかった当初は、外で待っているのがバカバカしくて筆者が上司より遅く出勤したことがありました。
そしたら、早速その日の夕方に社長から呼び出されたのです。
「仕事もできない下っ端が何様のつもりだ!」
もの凄い剣幕です。
怒ったときにはハサミや椅子まで投げつける社長で、過去に2階の階段から蹴落とされそうになったこともある社長です。
そんな人間がかなり怒っているので、何をされるか分からずに相当な恐怖でした。
筆者が上司より遅く出勤したことが社長の知るところとなったのは、上司が社長に告げ口したからです。
社長の乱暴な言葉も常識を逸脱してますが、上司の密告も最低です。
こうした社長の性格を熟知していたワケですから…。
「やっぱりこの上司は自分の敵なんだ」と思うしかありません。
この日を境に筆者は1年中、どんな気候であれ上司が出勤するまで外で立っていなければいけなくなりました。
この日以来、自分を守るために以下の3点を徹底することにしました。
『自分を守るためのルール』
1.上司より早く出勤し、玄関前の掃除を済ませておく。
2.掃除が終わったら、玄関の外で待機。
3.上司が来たら挨拶し、玄関を開けてもらって中に入る。
この自分ルールを5年間退職するまでずっと続けました。
大抵のことは我慢する筆者ですが、大変だったのは真冬です。
道路も凍るような氷点下の日に震えながら1人で除雪作業をした後、冷えた身体のまま外で待たなければいけないという異常な状況が生まれました。
除雪作業をすると汗をびっしょりかきます。
その大量の汗が冷えると、どんどん身体の温度を奪っていくので、すぐに着替えなければ凍えてしまいます。
急激に体が冷えて下腹部が痛くなり、トイレに行きたくなることもあります。
そんな極めて厳しい状況で、外で立ったまま上司の到着を待たなければいけないのです。
そんな中、上司が涼しい顔で出勤してきます。
こちらの苦労もしらずに気楽なものです。
(こいつのせいで…)
高ぶる感情をおさえるのにいつも苦労しました。
筆者と同じことを社長や上司は1度でもやってみたら良かった。
お得意の精神論で倒れるまでやったら良い。
やるわけはありません。
いつだってこの人たちは口だけなんだから。
ブラック企業ルール:業務が重複しようが「お前の都合だろ?」
業務の中には、「誰がやっても良い仕事=誰かがやらなくてはいけない仕事」
があります。
こういった業務をやるのは筆者なのですが、社長から言われてから動くと
「なぜこんな簡単な事に気付かない?!」
といつもの剣幕で怒られます。
そのため、普段からアンテナを張って自分から仕事を見つけてやるようにしていました。
一方で、他の業務も当然残っているので、仕事の優先順位を考えて取り組む必要がありました。
優先順位の高い業務から片付けようとすると
「気付いてるけど、今はする時間がない」
という状況も生まれるのですが、これがブラック社長には理解してもらえません。
そんな時、社長からプレッシャーをかけられます。
《「早くやれよ!」という意味のブラック社長の言葉》
社長「乾電池がなくなったな」→ 筆者「会社帰りに行ってきます」
社長「○○さんの誕生日が近いな」→ 筆者「明日までに贈り物を用意します」
社長「テレビの調子が悪いな」→ 筆者「夕方見てきます」
中には雑用の仕事も多く、利用者さんに直接影響を与える内容でなければ後回しにすることもあります。
なにせ行事がある際は、企画・運営・実行・後片付けから反省までを、ほぼ筆者一人でやっていたのです。
色んな業務をこなしながらなので、緊急性が低い仕事は後回しにしないと業務が終わらないのです。
そんな状況でブラック社長から「緊急性が低い仕事」を催促されると、すぐに取りかかれない理由を説明します。
「じゃあ、それが終ったら頼むな」と言ってくれたら良いのですが、そこはブラック社長です。
「そんなのお前の都合だ」
「下っ端のお前のペースに全員が合わせないといけないのか?」
と怒られて終わりなんです。
ブラック企業ルール:前向きな発言しか許されない
筆者からすると、
「今、それを言うの!?」
と突っ込みたくなるようなタイミングで、社長は面倒な業務を筆者に言いつけてきます。
わざと筆者を困らせるような事を言って、忠誠心を試してるのは分かっています。
なので、消極的な発言はタブーです。
社長が聞きたい返事は、
「分かりました」
これだけです。そして、
・いつから作業に取りかかるか?
・完了までどのくらいの日数を見込んでいるか?
この二点を報告しなければなりません。
もちろん、締め切りは真剣に取り組まないと終らないようなギリギリの日を指定しないと許可されません。
そして、1度作業を始めたら、進捗状況をこまめに報告することが求められました。
こんな日々を過ごしていると心が安まる暇はありません。
身体も疲れますが、頭も心もいつも疲れていました。
今振り返っても、よく5年間も続けられたな…と自分で感心?いや呆れます。
こんな会社は珍しいかもしれませんが、世の中にはどんな異形な会社があるかわかりません。
ブラック企業の場合、大抵は会社側の都合の良いように事実が曲げられて、社員の立場が悪くなります。
働きやすい職場環境を作るのは会社側の義務なのに、社員の方が一方的に会社への忠誠心を求められる事も少なくありません。
今回は筆者が勤めていた会社の話でしたが、皆さんもブラック企業にご注意を。